当センターでは、陽電子断層画像装置(Positron Emission Tomography, PET)を用いて、独自に開発した標識化合物(リガンド)や解析方法により、新たなる画像研究を行っています。
当センターでは、ヒト及び小動物用PET装置を配置して、それぞれの目的に合わせた用途で使用しております。
高い分解能(1.6mm)、高い検出感度をもつ実験小動物用PET装置は、体内での生理学的プロセスを画像化し、動態解析を通じてリガンド開発及びバイオ基礎研究に応用します。
ヒト用PET-CT装置は、当センターで開発されたリガンドの画像化や解析方法を実践する目的で導入しています。
図1:ヒト用(左)及び小動物用(右)PET装置
ポジトロン放出核種(11C、18F、15O等)を製造する負イオン加速小型サイクロトロンを装備し、各種標識化合物を合成しています。
15Oで標識した水([15O]H2O)、酸素、一酸化炭素等を合成する装置に加え、11C、18FからPET用薬剤を製造する装置をホットセルと呼ばれる遮へい装置内に収めています。
当センターでは、ホットセル内でアクアポリン標識薬剤([11C]TGN020)、2種類のブドウ糖類似物質([18F]3FDG, [18F]2FDG)、βアミロイド検出用薬剤([18F]フルテメタモール)を合成しています。
図2;サイクロトロン(左)、15O用(中央)、11C・18F用(右)標識化合物合成装置
当センターにてオリジナル開発したアクアポリン標的薬剤[11C]TGN020を用いて、世界に先駆けて生体におけるアクアポリンの画像化に成功しました。(文献1,2)
この画像技術を用いて、脳腫瘍の悪性度が高いほどアクアポリンの出現が高くなること(文献3、図5)、他の骨とは異なり頭蓋骨では豊富にアクアポリンが発現していることを報告しました(文献4、図6)。
図3;[11C] TGN-020 PET 画像 (野生型vs.AQP4ノックアウトマウス脳画像)
図4;[11C]TGN-020 PET 画像 (ヒト全身画像)
図5;神経膠腫のMRI及びアクアポリンPET画像(左)。[11C]TGN-020の取り込みは悪性度に比例し明らかに増加する(右)
図6;頭蓋骨(A)のアクアポリンは、肋骨、上腕骨などの骨(B)に比べ、明らかに豊富に存在することを示している(C)。
15O標識水([15O]H2O)を用いて脳内における水の流れを解析し、脳のリンパ機能として知られるglymphatic systemの機能評価を行いました。この方法で、アルツハイマー患者においてglymphatic system機能が低下していることを報告した(文献5、図7)。アルツハイマー病の発症早期に認められるβアミロイドの蓄積とglymphatic systemの機能との関連を詳細に検討することにより、発症のメカニズムの解明や治療法の開発につながることが期待できる。
図7;アルツハイマー患者(AD)では、脳内の水の流れは同年代の健常者(senior)と比べて明らかに低下している。